サンタ
itukamitaniji
サンタ
生まれた時からそれが使命だった
多分死ぬ寸前まで
誰かを笑顔にできるなら
ずっとそうやって生きていくんだよ
*
相棒のトナカイが 風邪をひいてしまって
どうにも困りましたが 仕事は仕事なので
今年はひとりで 町に降りて来たわけです
申し遅れました この町担当のサンタです
やだなぁもう そう言えば今日はクリスマスイブ
こんな浮かれたおっさんなんて 相手にしてられない
予定なんてないから 家で一人きりDVDでも見ようかと
早足で家路を急いでるんで どっかに消えて
*
地図を落としてしまって 困っているんです
最後のプレゼントを 送り届ける途中なのです
やっぱりひとりでは どうもうまくいかないのです
この写真の家が 何処なのか知りませんか?
本格的にイカれてる? いや待てよそれにしても
白髭に赤い衣装に 白い大きな荷物まで揃ってる
イブなのに 雰囲気無いなとサンタ
指をぱちんと鳴らしたなら不思議 雪が降り始めた
*
付き合う私も私だけど その家には見覚えがあった
帰り道に通る ツリーの綺麗な家だったと思う
辿り着いて 伝票をしっかり確認した後に
「よし。」と一言 柵を乗り越えるサンタ
何処からどう見ても 泥棒にしか見えない
屋根によじ登って 2階の部屋に窓から入ってゆく
響く大きな物音と叫び声 部屋に明かりが灯った後
逃げてくるサンタと それを追うレトリバー
*
少しでも面白い話だと 期待したのが間違いだった
何故か私も逃げる羽目に とんだメリークリスマスだ
逃げながらサンタはと言うと 隣で何故か笑ってて
「渡してやりました!」と 何度も繰り返すだけ
あわてんぼうの何とかっていう 冬の歌がありますけど
あの歌のモデルは 実は私なのですよとサンタ
馬鹿なんじゃないのって ついに私も笑った
星の綺麗な寒い空に 大量に吐き出す白い息ふたつ
*
何はともあれ 最後まで無事に配れました
あなたは年齢制限からは 外れていますけど特別です
何でも言ってください 私が出来るせめてのこと
分かってくれたでしょ? この町担当のサンタですから
恥ずかしいから 言葉になんて出来ない
胸の中で唱えた 私の欲しいものは…
恥ずかしいことはありません 欲しがる権利は
誰にだってあるのです 私には全てお見通しです
*
お安い御用ですとサンタ 指をぱちんと鳴らしたなら
私のポケットで携帯電話 光って震え出した
受話器の向こう側の 陽気な友達の笑い声と
お前も来いよと一言 そう言えば今日はクリスマスイブ
恥ずかしいから 言葉になんて出来なかった
胸の中で唱えた 私の欲しいものは「約束」
楽しいクリスマスを 私は帰りますとサンタ
指をぱちんと鳴らしたなら不思議 雪になって消えた
生まれた時からそれが使命だった
多分死ぬ寸前まで
誰かを笑顔にできるなら
ずっとそうやって生きていくんだよ