黙想の部屋
服部 剛
林道の枯草を踏み鳴らし
彼は音楽室へ歩む
灰色の壁に
暗闇の口を開けたドアを入り
細い通路を奥へ進む
無人の音楽室は広く
黒板の前に置かれた
パイプオルガンと椅子の上で
姿の無いバッハが弾いていた
暗闇の音楽室の黒板に
( 自らを、越えよ )
白いチョークの文字が薄く光る
日常のありふれた場面が
薄らうことのないように
私が私の脈を打つように
幻のバッハの指が
鍵盤に、ふれる
無人の音楽室で
腰掛けたバッハは
瞳を閉じて観照する
レースのカーテン越しの
青空に昇り
明日の地平を照らし出す
まあたらしい太陽を