聖夜  明滅する命
いねむり猫



お祭り騒ぎは終わった 
路上のツリーたちの つぶやき
澄んだ夜気が 満ちてくる頃

薄雲の切れ間から 星々の視線を感じて
今夜 本当の儀式が始まる


司祭は、浅い路肩の溝の中で息絶えようとしている
子猫のおまえにしよう

冷たい夜露の中で 次第に細くなるおまえの息が
この世界を 細くつなぎ合わせる最後の希望

だとしたら

命の その明滅する光の 危うい在り方が、
そのままこの世界の はかない一瞬一瞬の時を
つなぐ きずなだとしたら


命よ 顔に貼り付けられた酸素吸入器と
戦場の矢のように突き立てられた点滴の中で 
だれにも望まれず それでも 次の鼓動を続ける老婆の視線よ

命よ 羊水に進入するニコチンと甘いアルコールに浸され 
パチンコの騒音の中で 胎盤にしがみついている 疲労した胎児よ

命よ 身動きのできない囲いで死を待つだけの 
夜明けの光を一度として浴びたことのない 
無菌の鶏たちの 互いに呼び交わすささやきよ 

命よ 霜に凍りつく花弁に 蜜を求め 
ねじれてしまった羽を震わせる 老いた働き蜂よ

命よ 暗い鉱道に今日も追いやられ
ずるい母の励ましにすがる 幼い鉱夫の濡れた瞳よ

命よ 目的を失い 次の命をつむぐこともなく 
無数の命をむさぼり続け 遠くの砲声に震えるだけの 
若い街の兵士たちよ

ただ 一途に生きるだけの 太い理由を失い 
いとおしい今の 
かけがえのない一度たけの生を 感じることのできない

甘やかされた私たちよ

なぜ生きるのか 問うことを恐れて 
快楽の海に浸り 苦痛から逃れ続けている
私たちの命よ

他人の死がすぐ傍にあっても 空洞の体に 共鳴はなく
愛する人のかたわらにいても 生に何も満ちてはこない

ただ 恐怖によってのみ 
かすかな命の方向をさぐりあてては 悲鳴を挙げている
盲目の集団よ

命は 本当に尊いのか
命は 等しく祝福されているのか 
命は お互いが殺しあう以上の あり方があるのか
命を 自分以外の命を 本当に守らなければならないのか


これら命への問いを 

聖夜の司祭である おまえに
預けよう

命の 明滅する輝き
木々に宿る 星々のまたたきを 
いつ絶えるともしれない まれな祝福として
いとおしむ 

そのような仲間たちを  
探す旅を始めるのだ 今夜

だから おまえの濡れた体を 暖かいタオルでくるみ
その細くなるばかりの息を
ミルクの力で 太く育て 
糸のように細い視線を 
生意気な光で満たしてやろう
うなだれたひげを
針のようにするどく立ててやろう

喰われる命は 喰らう側の命に直接届かなくてはならないのか

ただ孤独に明滅する命は 
せめて土に触れ 太陽と雨が降り注がなくてはならないのか

どれほどか弱い 未来のない 命でも
生き続けてよいのだと おまえが教えてやってほしい


この聖夜に 明滅する命たちを
探す旅に 


一緒に行こう




自由詩 聖夜  明滅する命 Copyright いねむり猫 2010-12-23 10:15:00
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