どこの虎の骨  −ハコモノの内容物に捧げる哀歌
相差 遠波

獰猛な牙
私の腰まである肩骨
力強く張った後ろ足
しなやかで長い背骨 尻尾の先まで
虎の骨

きっと熱帯雨林の奥で
この巨体で獲物を待ち伏せしながら
たくましくしぶとく生きていた

と 思ったら
動物園の子でしたよ・・・・

どうりでキレイな骨だよね
厳しく生きていたならば
骨折のあとの一つや二つありそうだもの

でもこの子は
幸せに生きたのかな
餓えることなく
飼育員さんに甘えて暮らして
檻の外など どうでもよかったのかな
自分を物珍しく見る
たくさんの流れていく人間を
食べたい とは思わなかったのかな
夏の暑い空気に
熱帯雨林の湿気を
その遺伝子は思い出しはしなかったのかな

とうとう湿った腐葉土を踏むことなく
この子は骨になって博物館に立つ
このまま砕けてゴミになるまで
長い踵の骨は大地に触れることはない

まだ 漢方薬になった方がマシだ

獰猛な牙
私の腰まである肩骨
力強く張った後ろ足
しなやかで長い背骨 尻尾の先まで
虎の骨

その野生で生きるために構築された形状を
      無駄になった機能美を
私は黙ったまま哀れんだ


自由詩 どこの虎の骨  −ハコモノの内容物に捧げる哀歌 Copyright 相差 遠波 2010-12-22 13:51:58
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