当たり前のクリスマス
yumekyo

落ち着かない ざわめきばかりの都会(まち)に
今年も また クリスマスがやってきた
しけた ビル街の 四辻に出来た吹き溜まりから
流れる イルミネージョン 眺めてひとつ 吐息する

もう 10年も前の話
決まりごとを 盾に 震える人々を追い散らしてる
鉄面皮の 役人どもには 本気で腹が立って
走り出しては よじ登ってた
1日に たった1杯の カップ麺で粘る毎日
終わりの日は いつ頃来るのか 呆然とした僕に
クリスマスリースを 握らせてくれた
熱に溢れた 両手があった
小さな 本当に小さな リースだったけど
ひとりじゃないと 添えてくれたおかげで
何があっても 譲ることの出来ない 宝物になった

当たり前にやってきた
当たり前のクリスマスを きちんと祝おう
精一杯 精一杯 愉しんでみようじゃないか
かつて 両手に注がれた 放射熱を思い出して

台所の 曇りガラスの 向こう側には
腕によりをかけた ご馳走を作る 懸命な母がいる
リビングで きょうだいふたりが はしゃぎまわっては
クリスマスツリーに 色とりどりの 飾りを巻いてく
ジングルベル 綿帽子 靴下も忘れずに
玄関から 頼もしい声がしたんだ
東の街から 帰ってきたんだ
お星様をつけてよ っていう 元気な男の子に
ずいぶん兄貴らしくなったって目を細めて
節くれだった手の サンタクロースが頭をなでる
小さな 小さな家に 眩い一番星が灯った

当たり前にやってきた
当たり前のクリスマスを きちんと祝おう
精一杯 精一杯 愉しんでみようじゃないか
忙しなさに 忘れかけてた 未来への希望を両手に汲んで

日の差さず 底冷え厳しい 日曜日の昼下がり
ついぞ転寝をした 僕は随分リアルな 夢を見たんだ
雪の降りしきる 北の古都(みやこ)の 洋食屋
この夜を 一生の記念日にしたいという
懸命なふたりのテーブル シェフ自慢のスープを手ずから注いでは
うっとりと肩を寄せるのを 見守っていた
夜が更けて 店を閉めるころ ベンチに座る男に目が止まる
南の島から 流れ流れで来た 派遣労働者だ
慌てて招き入れて 最後に残ったスープを そっとテーブルに置く
男は最後の一滴まで飲み干して 顔を見上げて
故郷の歌を 一節歌って むせび泣いたんだ

当たり前にやってきた
当たり前のクリスマスを きちんと祝おう
精一杯 精一杯 愉しんでみようじゃないか
うずくまった黒い影に 一時でもいい 光をかざして

両手いっぱいの ご縁がありませんでした を 抱える若者よ
必死のぱっち お前を探してる ハゲたオヤジが居る 忘れるな
夢をかなえる 王子様を探しつかれた 女神達よ
まだ誰も知らない あなたの魅力を探す 不器用な男がいる 忘れるな
時に 僕も頭を 下げて下げて下げる暮らしで
憤りを 酒に垂らして ぶちまける日もある
世を恨み 人を恨み 槍玉に論ってしまうたびに
胸にしまった 小さな小さなリースが 柔らかく僕を冷ましてくれる

当たり前にやってきた
当たり前のクリスマスを きちんと祝おう
精一杯 精一杯 愉しんでみようじゃないか
唾を吐いたもとに 確かにある 小さな命をしっかりと見つめて

当たり前にやってきた
当たり前のクリスマスが
雪の日だったらいいな
自慢のスープに 言葉をごった煮にしたのを浮かべて
欲しいという 皆様方に 振舞って差し上げましょう


自由詩 当たり前のクリスマス Copyright yumekyo 2010-12-21 22:40:18
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