幽霊筏
北村 守通

芝生の海に
レジャーシートの筏を浮かべ
寝っころがったその先の
青い宇宙の奥行きを考えないで
ただ
平面の広さとして
憧れるだけであった
その日は
確かにあったのでありました

芝生の海に漂う
レジャーシートの筏の上で
頬張った
冷たくなった弁当の
温かさと
軟らかさに
満足した後に
何もすることがなかったので
昼寝しようと
瞼を閉じてみても
まぶし過ぎて眠られず
風が少しあり過ぎて眠られなかった
その日は
確かにあったのでありました

芝生の海に漂っていた
レジャーシートの筏の上には
何名か乗り組んでいたはずなのでありましたが
一人は南で降りました
一人はその東で降りました
一人はそこから北東で降りました
一人は南南西で降りました
一人は
一人は
一人は
一人は
何人だったのか忘れましたが
結局のところ
私だけでした
彼らあるいは彼女らが
どの様な顔のつくりをしていたのか
今となっては思い出す術もありません
彼らあるいは彼女らが
どちらに向かって漕いでいったのかは
結局のところわかりません

私が漂着した
この島が
どんなところなのかよくわかりません
けれども
筏はそのままに
使い慣れた世界はそのままにしてあります
世界には
狭さが必要だったのです
私が漂着した
この島で
芝生に寝っころがるのは
あまりに広すぎて
隠れるところも無くて
怖いことなので
今では
芝生には近寄らないようにしています
けれども
やっぱり
青々とした芝生の上で
寝っころがって
無防備な大の字を描いてみせた
日が
確かに
確かに
あったのでありました


自由詩 幽霊筏 Copyright 北村 守通 2010-12-21 12:45:02
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