記憶の小道
殿岡秀秋

コトバになる前の液体が
血管のように
からだじゅうをめぐって
指のさきからしみでる

溶けているのは
うれしい
かなしい
すき
きらい
うつくしい
きたない
そして
点滅する信号のような想い

管の壁から塊が
血栓のようにはがれる
再現されることを拒んできた記憶の結晶
浮いて
ながれて
狭くなったところをふさいで
重くて
暗いダムになる

ながれをとりもどしたい

日々携帯パソコンをひろげて
キーボードを指でたたくと
コトバになろうとして動く力が
ハンマーになって
氷の塊のような結晶を打つ

われて
くだけて
ながれて
古い記憶が映画のシーンのようにあらわれて
そのときの感情がよみがえって
指の先からしたたると
ぼくは叫び
うずくまる

それは
ぼくを縛っているものから自由になるための
闘い

何度もふりかえって
そのたびに
絵の具のようにコトバを塗り重ねて
乾いていくと
道ばたに咲くタンポポのように
風に揺れる景色の一部になる

小さな花々が咲く記憶の小道を
まだだれも見たことのない風景にであうためにぼくは
さらに遠くへと歩いていく





自由詩 記憶の小道 Copyright 殿岡秀秋 2010-12-20 20:48:41
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