ひとつ 伽藍
木立 悟





夕暮れを映す目に耳を寄せ
水の音を聴いている
水の音しか聴こえない
水の音を聴いている


火がこぼれ
また
火がこぼれた
到かないもののようだった


街より高い樹
無い街の地図
聴こえ来るうた
ひとり原めくる
ねむる息
ねむる息


ところどころ透明は白く
嘘に重ねた嘘を押しやる
先へ先へ
見えずに在るもの
わからないまま
何かに似るもの


群れる手のなか
ひとつの火
ただ一色の
虹のはじまり


建物から建物へ
髪は髪に燃え
影はかたちのかたちにたなびき
夜から夜へ依代を廻す


あなた以上の魔が居るかぎり
あなたは魔だが魔ではない
月を二つに割るまぶた
耳も血も街に降りそそぐ


うたは色を持たず
ただ水をゆく
場所を持たず
右肩を抱かれる


望むかぎり望みは無く
極地の陽を見つめる
光は
棘のように消える


あきらめの足りなさ
空の両端
透明を
透明に通る
何も聞こえない冬の日


闇に闇を彫り
雨をそそぐ
音しかない
音しかないのに
見えはじめる金


ふるえとふるえのさかいめをゆく
抱く抱かれるには触れもせず
在ると無しとのはざまにしたたる
わずかな糸を歩みつづける



























自由詩 ひとつ 伽藍 Copyright 木立 悟 2010-12-19 21:59:35
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