縫い目
高梁サトル
反復する細胞の分裂する音のほか
何も聞こえない無音の午後に瞼を閉じる
記憶の中で歳をとらないあなたの
豊齢線をなぞれば甦る
太陽と煙草の乾いた薫りが
こころの奥に降る雨に混じり溶けてゆく
この世界に
陽光や雨粒と無縁な者などいはしない
病んだしろい床の上で懸命に生きた
いのちの強さ、鋭さ、美しさに魅せられて
囚われ続ける遠い日々を抱えながら
均衡だけを保ち続けている
「おはよう」と「おやすみ」で繋がるいとなみ
この世界に
愛を憎み拒む理由などありはしない
鏡に映る半端な笑顔に
未だかける言葉を持たない私は
怪しげな俗情に飲まれて過去を浪費しないように
一個の善人になり悪人になり
すべてを捧げすべてを棄てて
あらゆる視点から彼方の軌跡を見詰め続ける
夢の中に現の中に
失われた生涯の一端を繕う
絶えながら増える受け継いだ細胞が
毎秒ごとに生まれ変わるたび
あなたを縫いつける
解けぬようかたく
、かたく