ルパタフユ
鈴木陽一レモン

1、

時計が居た。
車椅子の少女の部屋、机の上に小さな
目覚ましアラーム機能付きの。シンプルな。

セロハンテープは寝ていた。
事務員の引き出しの中で、無雑作に横になり
不必要な書類と、必要な書類を、それぞれ
敷き布団、掛け布団にして。

ある日、朝になればアラームを鳴らした。
目覚ましの
少女の部屋には充分なボリュームで、小さな体を震わせ
殴られた。

セロハンテープは、寝ていた。

ある日、昼の間、ぽかぽかと暇で。
時計は秒針を1秒に1メモリずつ、忘れずに
動かすことを忘れそうだった。忘れ、なかっ、た。

セロハンテープは、寝ていた。
消しゴムを、枕に。

ある日、眠くて眠りたかった。
時計は、眠る。というのが、分からなかった
その時は、死ぬんだろう。と思っていた
漠然と。死ぬだろうって、思った。

寝ていた。セロハンテープは
石に漱ぎ。

ある日。時計は、ある日、としか思えなかった。
時間の事なら『とくい』(『 』内に傍点) なのに
日付の事となると『てんで』からっきしだ。

寝ていた。セロハンテープの
寝言は、こうだ
「むにゃむにゃ。我輩は寝子である。」

ある日の、あくる日、つまり、ある日。
前日や、前々日と変わりはなかった
眠かった。

寝ていた。

ある日、
車椅子の少女は軍人に恋をして、ふられた
軍人は孤児に恋をして、ふられた
孤児は冷血な大金持ちに恋をして
両想いだったけど、ふられた
大金持ちには、孤児の死んだ父親が
取り憑いて取り返しのつかないことになる。
 というような韓国ドラマを見ていた
誰かが。

事務員は月曜になれば
ひき出しを開けることもできた。
それなのに事務員は少女のことを想っていて
ひき出しを開けること、を後回しにしてばかりで
寝ていた。いつまでも。

時計は居た。いつまでも。

セロハンテープは、眠る。
乾くまで。 乾いても、なお
眠ってこのかた、目覚めたことなど、なかった。

時計は、居た。机の上で。
電池が切れていた。だから
動けなかった。これが眠るということなのかな
って思っていた。けれど、
これが眠るということかなって思ってるうちは
まだ眠ってはいなかったし、死んでなかった。
その証拠に、電池を替える、ただ、それだけで
時計は再び、動き出すのだ。ゾンビ。

セロハンテープは、ミイラ。

あなたは。どっち?


2、

遠い昔、はるかな
過去から見ての、未来
ようするに、最近の話なのですが
くのいち風な女教師は健康に気をつかわない。

くのいち風女教師の姉や弟は健康に気をつかうし
くのいち風女教師の祖父や祖母は早死にしたというのに
なおも健康に気をつかわないのが、くのいち風女教師だ。

くのいち風女教師の父や母は健康に気をつかうが、
くのいち風女教師、その人は健康に気をつかわない。
ゆえに、ということになると思うけれど、私は、
くのいち風女教師についてこそ語りたい。

くのいち風女教師の父や母、姉や弟について知りたい
という人だって居るだろうか。
くのいち風女教師の祖父や祖母が何故、早死にしたか
その詳細に興味があるだろうか。
私は、語らない。
私が語るのは、くのいち風女教師の生き様だ。
ご了承いただきたい。おあいにく。

 悪代官風な転校生が、教室の扉を開くと同時
 悪戯に仕掛けられた黒板消しの落下する速度
 より早く人生を脱落していった生徒さえ存在
 くのいち風女教師は、それら何れに対しても
 完全シカトのスタンスで臨んだ。

 みんな、独りで、往かざるをえなかった。

で、ここからは、話半分で聞いてほしいのですが
カタワで一つ目の半妖は、半身浴が好きで
夜半を過ぎると、半分だけ湯を張った風呂に浸かりながら
半生を振り返るという。 気持ち良さそうに。
半開きの一つ目から零れ出る米粒は、
たちまち炊き上がり半ライスとなる。

彼は、座敷わらしとコシヒカリのハーフなのです。
ササニシキとか、いろんな米との配合を試していくうちに
半ばヤケッパチになった人が、座敷わらしと配合しちゃって
産まれたのが、彼です。
彼は、自分自身の存在にさえ半信半疑で、一年の半分は風邪気味だった
バファリンを恐れ、満月を恐れた。キューピーハーフを愛した。
ハーブティーは、そこそこ好きだった。おしい!と言った。
願わくば、ハーブティー と書いてくれれば、もっと良くなる。
カタカナは半角にかぎる!と、言っていた。
100%ジュースはあるのに50%ジュースがないのは不満だ!とも。

人に会うと、二分の一の確立で
「妖怪の方ですよね?」と声をかけられた。
えぇ、まぁ…と、どっちつかずな返事をしていたが
「お米粒ですよね?」と言われた時には
んなわけねえだろ!?と、キレた。いや、半ギレだった。
妖怪と言われるのはまんざらでもないが、
米と言われるのは、なぜだかイラッとした。
たぶん「お米?」とか言ってくる奴は、だいたい半笑いだからだ。

ルーツ探し
冒険ファンタジー

少数民族        つづく。。


自由詩 ルパタフユ Copyright 鈴木陽一レモン 2010-12-15 11:06:07
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