もう逃亡しません《2007年》
うんち

小さな逃亡

取り除かなければならないものが
屑篭のすぐ内側にこびりついているようにみえたので
きみはこれをスプーンでくりりとすくいだし
ベランダの出窓から
解き放ってみれば
森の広がる地面にそのままに滑り落ちました。
それでよかったと
わたしはわたしに言い聞かせます。

わたしのきみは狡猾ではありません。
それでよかった。

でも何なのか判らないままに捨てちまったんだもの。
何だったのか見にいく?
気になるわね。

もうすぐ帰ってくるいつもの冷徹男爵さんは何も知らない。
わたしときみのナルシストは話す程でもないでしょう。

このままおびただしい霧の方角へ滑り込み消えてしまいしょう。
肉球を強奪した猫に会う為には会えるかも知れません。



げらげらげらげら
まるで化け物のように笑う。
哀しみと暗闇の中で指は唄う。
何時しか月に見つからぬうちに消さねばと
取り除かなければならぬものが
つめたい器の内に
しつこくこびりついているようにみえ、
底はかとなく、くろぐろとした
病の液のようなそれを
わたしたちはスプーンでくりりとすくいだし
ベランダの出窓から解き放ってしまったのでした。
ーわたしたちの芥(ごみ)をー
それは森ばかりの広がる地に
そのままに滑り落ちて割れました。
それでよかったんだわと
わたしはわたしに言い聞かせ
けれど何なのか判らないままに捨てちまった、
何だったのか見にいきますか、と
あなたはいいますが
わたしたちのナルシストは話す程でもなく
このまま
ふたりきりで
おびただしい霧の方角へ滑り込み消えてしまいしょう。と
 誰も知らないのに
 何も知らないのに

わたしたちは
すこしだけ
わたしたちは
すこしだけ逃亡を
繰り返している
小さな小さな阿呆たちではありません!

いや 阿呆だよ 笑



突然に 敷き詰められた 不定形の 想い出たちが 絡む
それらは 鮮やかにみどりいろとももいろを帯びて 今は微笑んでくれている
ときおり 極寒のなみだを 氷(ひょう)のごとく 降らせている
けれど また 微量のシロップを 効かせて 私をも絡ませて 微笑ませるようになる

また 新しい想い出たちが くるりくるりと遊びだして
やわらかくけれど重みを増して こころを 支配していることに 気付かずにいる
抜け出ることの 出来ない からだが
生ぬるい 絨毯の上に ひとつ 転がっている
何を我慢しているか 何ができないのか
固まった 石になる カラダ

今は何も飲めない


〈2007〉


自由詩 もう逃亡しません《2007年》 Copyright うんち 2010-12-14 17:09:08
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