砂上のひと
恋月 ぴの
ゾウさんの鼻先あたり
あるべきものが無いというか
腰の高さでぐるっとフェンスに囲われていた
ご丁寧にも幼い好奇心を遮るシートまでかぶせてある
わざわざペットを囲いのなかへ入れて
おしっことかさせる飼い主いるらしいしねえ
誰もいなくなった夕暮れの公園
砂場には誰かの置き忘れたスコップとバケツが寂しげで
そんな光景って記憶のなかに残るだけとなってしまったのかな
幼い頃、私が砂場で作ったもの
それはお城だったり
秘密の王国へ通じるトンネルだったり
できたと思ったらイジメっ子な男の子に壊されてしまうのだけど
いつものように泣きベソかいてると
どっからかカレーの美味しそうな匂い漂ってくる
だるまさんがころんだ
おなかがぐうっとなっちゃって
おんなの子だって袖口で鼻水なんか拭っていたけど
いまどきの夜空は街路樹に飾られたLEDの眩しさに遮られ
いつから息苦しくなったのかな
もっとおおらかさあったような気がする
砂の上には楼閣さえ造り得なくなって
それでも訳知り顔じゃすまされないのは判ってはいても
私のせいじゃないけどさ
吹き抜けた木枯らしに首をすくめて帰りを急ぐ