葬列
萩野なつみ

雨に濡れた明朝体のような
あなたのてのひらで
さやさやと海をやどす桃の実と

どこからか
うちよせる
まひるまの
葬列

泳げないわたしのために
あなたが桃にナイフを入れるたび
潮騒がこぼれるものだから
白く染まる爪先と
わたしの髪と

馥郁とした香気を
どうすることもできずに
ほそく
煙があがるさまをみていた
あれは
あるいは

あかるい葬列
しらぬまに
また ほどかれるまで

乾ききらない髪を
金星の方角になびかせて
荼毘に付されるだれかをおもった
まひるまの、

あなたのてのひらがなぜる、白い
墓碑銘と
わたしと
桃の実と。



 
 

初出:現代詩手帖2010年11月号新人作品



自由詩 葬列 Copyright 萩野なつみ 2010-12-10 17:21:01
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