ノルウェイの森とは全く関係のない森の話
木屋 亞万
森の中を進む
木の無い森
草の無い森
ただ土で満たされた森
水は砂の底を流れ
砂があちらこちらに山を作る
表面は水の波紋のように風と遊ぶ
「ここはかつて森であったのだ」
と言う人がいる
何を言っているのか
いまも立派な森ではないか
木も草もない
生き物も多く失せた
でもここが森でなくなることはない
森が森であるために
必要な木の本数というものがあるだろうか
「この林は木が二十五本足りなかったから森にはなれなかったのだ」
なんて聞いたことがない
「森から木が失われて徐々に林と化していく」とも思えない
森林という言葉は木で溢れている
けれど森と林の間にあるのは
森は森であること
林が林であること
以外に違いはない
森林から木が完全に失われたら
「 」になってしまう
これを僕らは何と呼ぶのか
それもやはり森なのだ
森以外ないじゃないか
木の無い森
草の無い森
何もない森
砂だけの森
そこを歩く僕らは
底に水が流れるうちに種を蒔こう
木を植えよう
森が森らしくあるために
森は木で満たされているべきなのだ