まだだ。まだなのだ。
板谷みきょう

もうこれで充分だとでも
言うのだろうか

まだだ。まだなのだ。

米が無いことを嘆き呟けば
芋や南瓜が60kgも届いたじゃないか

ふた月を米無しで過ごすことに
愚痴を溢せば
30kgの新米が届いたじゃないか

炊き立ての新米が有難くて
妻と二人で
泣きながら食べたのも
つい先日のことじゃないか

何とかなると光が見えた年の瀬に
彼方此方にお荷物のように
三ヶ月でたらい回しにされる母と
明日から放射線治療が始まる兄と
差押予告書に右往左往する我家と

誠実に慎ましく
生きてきたはずだから
きっと皆も口にしないだけで
同じように哀しく切ない暮らしを
何とか続けているはずだと

自分を励まし
日々を踏みしめるように
息をするのと同じく暮らすのだ

もうこれで充分だとでも
言うのだろうか

まだだ。まだなのだ。

辛く苦しいことばかりだけが
永遠に続くような錯覚に
騙されてはおしまいだ

輝く為に産まれてきたはずなのに
心ない言葉に痛めた気持ちを
誰にも告げられず
本当に
素晴らしいことも知らず
出会う機会さえも失って命が消える

そんな報道に胸を痛めながら
宵越しの金は持たない日銭稼ぎの商売に
年越しの為に年末に入る依頼は
どこであろうとも
全て都合がつく限りは引き受けよう

まだだ。

まだだ。

まだなのだ。

http://www.youtube.com/watch?v=YlUFl9XnjXE


自由詩 まだだ。まだなのだ。 Copyright 板谷みきょう 2010-12-05 20:09:25
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