ゼロ地点、もしくはエデン
ホロウ・シカエルボク





雨の底の
底に
俺は沈んで


終わることのない
脳髄のノイズを聴いている


時間は混濁して
精神は
幾年も日向で放置された
古い
毛布のようで


肉体と刺し違えた
傷が
膿んでは
鈍く痛みだす
物体ではないから
治癒し辛い


始末が悪い


雨の底で
底で
目を開いて


映るものは
直線を欠いた
輪郭と
なんらかのマイナスについて語る


音のまだら模様
静かに
静かすぎて
囁きと呼ぶことすら


躊躇う


こすれながら消えた
思念の名前は自我
ペンチで抜かれた歯のような
喪失は滑稽で寂しい


溜まることも知らない
よどむことも判らない
いくつかの
流れが
生じることも
判らない
底の底では
底の底では…


赤子のような
無意味な言葉で


空白に輪をかける
時間
時間


呼吸するたびに
密度を変える
不浄の
エクトプラズム―霊体


死がそうなら生もそう
死がそうなら生もそう
死がそうなら


全部
そうだ
知っていたのだ
出来の良くない
肌を
見つめるみたいに
初めから
すべて


歯軋りのような雨の音
歯軋りのような
眠りは
釈然としない色合みたいで


混沌と呼ぶほどの哀しみもない


おお
ああ


萎んだ性器が
語る欲望には
露ほどの
ぎらつきすらなく


おお
ああ
雨の底
雨の底で
雨の底の底で


メトロノウム
目泥濃霧は
死ぬるから
きちんと
リズムを
刻めない


暗闇が怖いのはあなたじゃない


歪んだ夢の形
哀しいと言えない
見捨てられた視界の隅
哀しいと言えない
阿呆鳥の骨格
哀しいと言えない
霧の中のキス
哀しいと言えない


失われた時点で
哀しみとは呼べない


見目麗しい
うら若きシスターの
楚々としたところに
精液で
名を刻め


誰があなたの名を記す
誰があなたの名を記す
我は
あなたの名を穢すものなり
ハレルヤ
ハレルヤ
失われた楽園こそが永遠
そうだろう
そうだろう?


なあ
ぐちゃぐちゃで
判らなくなったものだからこそ
そこには
理由があると思わないか
俺は沈んだんだ
俺は
沈み過ぎたんだ
どんなことをすれば
それが
本当のうたになるのか
結局
判らなかった


灰色のまま
塗り替えられる細胞
祈りのセンテンスには
取り違えられた解釈が添えられた


ねえ
初めにあったものは
いまはもうない
雨の底の底で
俺は
直線を欠いた輪郭を見ている


ねえ
結局


汚れるものは純情なんだ
俺はそのことを知っていた
ごらん


俺は腐敗しない
雨の底で
俺は腐敗しない


だけど




それは何処にも行けはしない






自由詩 ゼロ地点、もしくはエデン Copyright ホロウ・シカエルボク 2010-12-05 01:18:00
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