(タイトル)
カワグチタケシ

ラタトゥイユ 振動を吸収する構造体
それはタイトルを持たないストーリー

いつもこの店の同じ席で夕日が沈むのを眺めている君は
少し首を傾けて眠そうな目で今日も誰かの約束を待っている
クリスマスの朝 君が引いたいくつかの曲線に
忘れっぽい天使
と名前をつけてみる
忘れっぽい天使
と名前をつけてそれが君のことだと気づく

どんなに小さなことでも君は忘れてはいけない
だから君が忘れないように
俺が名前をつけてあげよう

アスファルトのくぼみにたまった泥水を飲む鳩の群れにも
波間にただよう夕日の残像にも
欠けはじめた月をぼんやりとにじませる雲にも星の連なりにも
君が足あとをつけたビーチの砂の一粒一粒にも

朝の10時から酔払って足元もおぼつかない俺が
いつか完全に消えてなくなっても
長大な名前のリストがひとつの美しいタイトルを伴って残るように
君が忘れることを恐れずに安心して眠れるように

あの日君が見ていた海岸線は今もそこにあるよ
時々忘れたふりをしてみせるだけで
そう どんなに小さなことも決して忘れてはいないよ
 
 


自由詩 (タイトル) Copyright カワグチタケシ 2010-12-04 00:14:43
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