冬に芽吹いた新世界へ
within

冬にひとりだけ生き残った蚊のように
殺がれていった私の身体に
悲鳴は一瞬で消えてしまい
なだらかな夕日が
両の眼で揺れる

ヒステリックに哀しみをぶちまけ
涙を流さず嗚咽だけを漏らし
笑顔で待ち人を迎える

行方知れずの人を忘れようと
走る、さ迷う、歌う
忘れられないから動き続ける

なだらかな波と
粒子と粒子のぶつかり合いが
無限小の海で続き
私は放流された稚魚の群れに混ざり
一緒に泳いでいた

水底に辿り着くまでに
偏光を繰り返し
精錬された鋼のような光は
柔らかい毛布の向こうで
眠っている私を
貫き
血まみれにし
深い眠りの底で
少年が震え始める

轟く雷鳴が海溝を裂き
溜まった澱が舞い始める
私は流れに逆らうことなく
群れとともに泳ぎ続ける
海の色に染まり
夜の星をはね返し
月光に鱗片をきらめかす

うすっぺらな安らぎと平和は
たったひと言で終わってしまうけれど
まっくら闇に飲まれた稚魚が
たった一匹でも生き残れば
それは希望に違いない
ちっぽけでも
希望だけが
再び私を揺り起こしてくれる


自由詩 冬に芽吹いた新世界へ Copyright within 2010-12-03 11:43:58
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