夕海
梨玖

公園の夕刻を鴉が告げていく。
またね。別れを告げる女の子。途切れ途切れに笑う。最後のひとりだった。
そうしてまたぼくはひとりぼっち。
完成間際の砂の城。どうしようもないよ、とりあえず完成させようか。独り言。

出来る限り大きくした。トンネルも作った。手を伸ばして突っ込む。
ぱちん、と瞼を閉じる。指先に温かい感触を覚えた。ぎゅ、と優しく握られる。覚えのありすぎる体温。
――目を開ける。ほら。
常に薄い幻想と期待はぼくを取り巻いて、いて。

靴が汚れるのも知らない。蹴りあげた砂。土塊になる。城は崩壊する。期待も崩れ去る。
埃っぽくて少しだけ噎せた。
ぽつり、おかあさん。
呟いた声は濁った空気を吸い込んで枯れていた。
薄ら寒い不安。響いていく限界の破壊音。そうしてはまた繰り返し城を制作。砂を集めすぎた小さな手はざらついていて。

キィキィと泣くブランコ、ちかちか、切れ掛けの電灯。出現し始めた月と夜。此処は騒がしいのに。どうしてぼくは泣いているの。

母が来たら、思いっきり罵声を浴びせよう、ね。
反転した風が、きっと涙を拭いてくれるだろうから。

空が鈍色に変わる。飛び交う電波。雲ももう見えない。影が隣でそっと伸びる。
此処においていかれるのはこわいから。
闇に苛まれる焦燥感。襲い来る収縮する夜。追いかけてこないで。ぼくが耐えきれなくなる。

どうか早く母が来ますように。
それまではこの遊びを。
夕日と地平線の境界線が溶けるのをぼくは背中で感じた。






自由詩 夕海 Copyright 梨玖 2010-12-03 00:33:48
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