御伽噺
yumekyo

終わりの見えない森の
奥の奥の方に
澄んだ水を湛えた泉があって
木漏れ日が緩やかに落ちる中に
光を放つ石がひとつ沈んでいた

分け入って 分け入ってたどり着いた少年が
泉の中に精一杯手を伸ばした
疲労困憊の中で
考え付く限りの人事を尽くした
されど
光を放つ石に至ることはどうしてもできなかった

その場にへたり込んで唇をかむ少年
暫くして網を持った大人の男が現れた
男は網を泉に投げて
いとも簡単に光を放つ石を拾って去った
どや顔すら見せることもなかった

街では有名な御伽噺で
かねてより大人は卑怯だという意見と
少年には単に潜って取る勇気がなかっただけだという意見がある
かつて後者が優勢だった頃は
街にはもっと活気があったけども
最近は大人を卑怯だという意見だけではなく
そもそも石にたどり着いた少年を嫉む意見が急激に増えてきていて
ちょっとしたことで誰が誰をもののしるようになって
街はぐっと寂れてしまった


自由詩 御伽噺 Copyright yumekyo 2010-12-02 22:52:47
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