静物画家の日記
番田
逆光の色など美しいわけがないと、
絵画を見つめながら私は呟く。
私の絵画が目の前には実体として確実にあるのだが、
夕暮れの、緑色の丘における、
涙色をしたため息を吐かされている。
水色の船の出る海を目尻に眺めては、
真っ白い浜辺に人々のたむろしている、
今日の日は光り輝く良い天気だ。
散水シャワーの裏手にある静かな店で、
高すぎるコーヒーをすすりながら子供の水着を眺めている。
ベッケンバウアーの放つジャンピングボレーシュート。
所持金を無くしてサンドイッチに噛みつけば、
親父は小馬鹿にしたような目つきで俺を刺してきた。
オリーブオイルをしぶしぶとパンに吹きかけ、
色んなものを涙の流れる胃の壁に向けてなすりつけた。
わざわざ遠出の旅行に出たところなのにこの有様。
*
この店一番のご令嬢の金色の髪の毛が入り口の扉からおでましだ。
キャバクラ嬢の手のひらに触れるのはかまわないとのことで、
気にくわない傲慢な相手には偽のクレームをする娘もいる、
ボディタッチなどは即退場とのルールを説明された。
ツマミのスルメを奥歯の先端を使って噛み砕いた、
何気なく手を触れながら酒を回し飲みしあっている俺。
ガーターストッキングは新調したものだと言っていたが、
見ることはできないという説明に今夜も頭に来ることばかり。
どこまでも続く赤土色した壁だらけ。
鼻の穴からはみ出たメチルアルコールが燃え広がる、
レミオロメンのへたくそなバックコーラス、
ミニ四駆のゴムタイヤを装着すべきだ。