さしすせそ
小川 葉

 
 
(さ)

さかなが
さ、のじをなくして
かなさんになってしまった

きしへあがったかなさんは
あうひとびとに
たずねるけれど
さ、なんてしらないなあ
きれいなひとだなあ
とこたえるばかり

このままでは
さかなに
もどれなくなってしまう
あわててはしりだす
かなさんのいくさきに
さかがあった

おじょうさん
な、をしりませんか?
わたしの
な、を

もはやみちのいちぶとなった
さかのこえなど
かなさんにはきこえない
さかもまた
な、をなくしてしまった
さかななのだった

しかしもともと
おたがいさかなだったせいか
いっしゅんこえがきこえた
そのとき
めがねのようにかけていた
さ、が
かなさんのひたいからおちた

あったわ!

きがついたときにはおそかった
さ、が
さか、にくっついて
さかさ、になると
せかいのすべてがひっくりかえり
はるかずじょうには
うみがうかんでいたのである

もうかえれない
うみをみあげながら
くものうえをあるいていると
な、がおちている
な、をひろったかなさんは
かなな、になった

かなにも
さかなにももどれない
かなな、は
ようせいのなまえだった


(し)

し、が
やってくる

つりばりのような
そのするどいかえしで
いきものを
つれていくのだ

しかしよくみると
し、は
はなのかたちにもにている

あれはもしかしたら
はなのにおいをかぎにきた
はななのではないだろうか

しのくにから
いのちを
なつかしみ
はるばるやってきた

しのように
し、は


(す)

す。

いま
おならがうまれ
おならがしんだ

いきる
ということは
それらをうけいれ
みとどける
ことだった


(せ)

かいが
せかいなのである

からに
とじこもるとき
はじめて
そとがわも
あるとしるから


(そ)

かなさんが
さかをあるくとちゅう
そ、をひろった

そ、かな
といった

だれかに
そうだんしたかった
そのおもいを
いつもきいてくれた
そのひとに

もういないから
かなさんは
ひとりで
さかをあるいていく

そ、と
いって
 
 


自由詩 さしすせそ Copyright 小川 葉 2010-12-02 00:44:04
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