飛行船のなる樹
塔野夏子

僕の住む街の近くに
緑の草におおわれた丘があって
その頂には飛行船のなる樹が立っている

枝々に
最初は小さな小さな 飛行船がぶらさがって
そして日に日に 少しずつ大きくなってゆく
その様子を 僕らは毎日のように見にゆく
誰も小さな飛行船を
自分のものにしようともいでしまったりなんかしない

そしてある日
飛行船たちは
ひとつまたひとつと
枝からはなれて飛びたってゆく
前から決まっていたかのように
それぞれに いろんな方向をさして
ゆっくりと飛んでゆく 遠い空へと消えてゆく
その様子を見るのを 僕らは一番楽しみにしている

でも時々
怖い夢を見る
そうして飛びたっていった飛行船が
遠くの知らない空で
けれどここの空からつながっているには違いないどこかで
得体の知れない火に撃たれて
燃え落ちてしまう夢だ

僕はそんな夢から目ざめるたび
それが夢だけなのか不安になる
それが夢だけであるように祈る

ある夜
得体の知れない火が丘の上に降ってきて
飛行船のなる樹がすっかり
燃えてしまう夢を見た
怖くて目ざめた僕は
夜の闇の中震えながら
それが夢だけであるように祈った





自由詩 飛行船のなる樹 Copyright 塔野夏子 2010-12-01 21:00:33
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