nonya


その唇で
言葉のシャボン玉を
際限なく繰り出しては
あらゆる色と形を
貪欲に飲み尽くす

その唇で
まことしやかな嘘を
丹念に織り成しては
曖昧に微笑んだ後に
こっそり赤い舌をのぞかせたりする

女のそれには
別な人格が宿っているらしい
艶やかな色を重ねて
夢と現の境目を
ひらりはらりと舞うのが
とても好きらしい

男は慌てて
鍵のかからない意識の小部屋に
みすぼらしい虫篭と虫捕り網を
取りに駆け出すけれど
未だ彼女の実体を
虫ピンで止めたことはない

今宵
あけすけな罠に敢えて陥り
訳知り顔で浮かれていたら
またしてもゲームオーバー
自分の肩幅の狭さを知る

イルミネーションが明るすぎる
しがない新月の夜に
とりとめもない影を引きずって
仕方無しに苦い水を飲み歩く

嗚呼
投げキッスだけにしとけばよかった




自由詩Copyright nonya 2010-12-01 18:58:01
notebook Home 戻る