今日
salco

過去など何処にもありはしない
ちょうど幼い私が失禁して
呆然と佇んだ道端の
あの豆腐屋が
とうに消えて無くなっていたように

私はいつ、大人になり
いつから老い始めたのだろう
私はいつ、若い娘になり
いつから若い女でなくなったのだろう

人は過去の堆積の上に今を生き
蓄積のビットを数えて生きている
まるで預金通帳の取扱い高みたいに
実在せぬ金額の印字に頬をすり寄せて
4千万円の来し方に思いを馳せてみたところで
残高が増えるでなし

未来など何処にもありはしない
甘い夢を描いたって
それは小汚い不動産屋の
ガラスに貼られた間取り図のようなもの
店子は所有権など永遠に持てないし、家主には
低所得者しか寄りつかぬボロ家を抱え込む
悪夢だけが待っているようなもので

死んだ鶏に卵は期待出来ない
年食った卵巣や脳みそにもだ
お前は腕を精いっぱい前に伸ばして
渦巻く気流の彼方にある何かを
血走った目を剥いて掴もうとするけれど
糸くず1本、指に引っかかりはしない
いつも靴のサイズ大の今日


自由詩  今日 Copyright salco 2010-11-30 01:02:48
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