ドラえもんのいない世界で 
服部 剛

のび太君はいつも 
スネ夫にからかわれては 
頭が煙の昇るエントツになるものの 
テストや体育の時間になると 
何故だか決まって、負けるのです。 

そんなスネ夫にも 
時折気まぐれの風が吹いて 
(のび太、ほら、シュートだ!) 
と、絶妙なパスをくれることもあり 
(スネ夫にもたまには、感謝しなきゃなぁ・・・) 
と、タイムマシーンの机に頬杖ついて 
しみじみ・・・思っているのです。 

時々上映される映画館のスクリーンの中だけ  
のび太君はジャイアンよりも、強くなる。 

けれども読者の胸を最も震わせたのは  
ドラえもんが始まって間もない頃の話  

ドラえもんが21世紀に帰ってしまうので 
殴られても、殴られても、ジャイアンにへばりついて 
泥々の姿になって 

(こいつ、何だか気味わりいや・・・) 
と、ジャイアンが空地から逃げ 

(ドラえもん、僕・・・負けなかったよ) 
と、倒れたまま心の中で呟いた、あの場面。 

大人といわれる年齢としになった読者は 
古びた漫画本をぱたん、と閉じる。 

日常という漫画本の世界へ 
明日、足を踏み入れる。 

のび太君に勝るとも劣らない 
密かな、主人公として。 








自由詩 ドラえもんのいない世界で  Copyright 服部 剛 2010-11-28 19:31:13
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