あなた
草野大悟

あなたは なんの前ぶれもなく 姿を消した
私は おろおろと いつもの金星までのふたりの散歩道を探す  忘れてしまったあなたの名前を呼びながら


一人目のあなたは 地球が好きで 私を連れて毎日のように地球を七回半回っていたけれど ある日 ストン という音を残して姿を見せなくなった
 二人目のあなたとは この街のショッピングセンターで偶然に出会って         その日のうちにひとつになり その日のうちに 別れた
  三人目のあなたは 青い顔した健康で 一週間ほど付き合ったら死んでしまったから
    捨てた
   四人目のあなたは 火星までのウォーキングを愛する赤い心を持って          ひとつになりたがっていた
    五人目から十人目までのあなたとは 光速で別れたので 想い出は ない


十一人目のあなただった  これまでになくしっくりなじむ
永遠に エイエンを信じた

さがした
空のすみずみまで
流星たちにも頼んだ
さがしながらあなたを忘れてゆき
十二人目のあなたとひとつになったころ
十一人目のあなたは見つかった

「月の裏側で倒れていたよ」
そう教えてくれたのは
シシ座流星群ナンバー3

大急ぎで あなたの元へと走った
あなたは クレーターの蔭に ポツン と音をたてて転がっていた
まだ 息はあった 体に刻まれた数字が明るかった


私は あなたを掌に握りしめ 一緒に来た十二人目はポケットに入れて
       ふうーっ
と息を吐き     にこにこ笑いながら 地球へと歩き出していた


自由詩 あなた Copyright 草野大悟 2010-11-28 07:20:41
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