日常茶飯
salco

新世紀。
 とは言いながら
殺戮の大義に明け暮れの
墓穴堀りは相も変わらず
典籍てんせき天窓てんそううずたかく、
歴史は繰り返すと錯覚させるが
掘り返せる遺物はあれ
繰り返せる現などありはしない
人も世も失せて行くのに
頭蓋の中を跳び回る
猿を延々飼うだけの話

朽ち葉土くれでは相応でない、
世に贖う術なしと言うお宝収めた棺箱を
深く穿った地面に手厚く埋めるには
せめて手垢まみれの札束しかあるまい
それでもいずれ土饅頭は土饅頭
屠られた遺骸には流血の黒い痕跡
生命の尊厳とやら
何ぞの物理か一個の質量が地球より大という
炭化水素のこの堆積が
地下資源になるのはいつの事やら

戦争はいつも過日の蜃気楼
戦場は地図に刺したピンの先
市街戦は我が家の午後十時
居間の液晶画面の中
フルタチさんは今日も眉根を寄せて
親父は胡坐で缶傾ける
使い回しのジュラルミンかんの中
瞑目の兵士も家路を辿る

日常は空を巡って海上を渡り
白い峰から飛び降りると
稜線をがれまで一気に下ってれきを刎ね
潅木をぎ、森を騒がせ湖面を叩き
波なす山腹を駆け上がっては
谷へ転がり勢いを殺ぎ
田園の丘陵をさわさわと撫で
郊外の屋根々々へ到る頃にはすっかり衰えよたよたと
軒下の蜘蛛の巣相手に青息吐息

ドリーちゃん達が草食む牧場の柵向こう
疎らの樹間にほの見える畑地と更地の斑模様
更なる麓は遥か地平を埋める人家の凝集
細々と間を縫う道路を挟み相似に並ぶ、
賽の目区画の塀の中から灰色のアスファルトへと
色とりどりに身奇麗な老若男女のぞろぞろと
わけても目覚めの不機嫌を頬に瞼に浮腫ませて
何かを鞄に詰め込んだ少年・少女が
続々と吐き出されて来る穏やかな朝



自由詩 日常茶飯 Copyright salco 2010-11-27 21:46:46
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