優しい目をしている
北野つづみ

優しい眼をしている。街角で行き交う
人たちはみな忘れている。周りにある
危険を。ふいに背後から、あるいは前
から、加えられる危害を。そうでなけ
れば互いの距離を取らないで、どうし
て正気でいられるだろう。肩と肩とが
擦れ合う。

私の庭に来る鳥たちは、みな鋭い眼を
している。常に警戒を怠らない。そし
て私を近寄らせてはくれない。

距離を置く。向き合う。眼が合って緊
張感が生まれる。素知らぬ顔で窺う。
今、鳥は私の存在を全身で捉えている。
感じている。思いを巡らせている。そ
の翼はいつでも飛び立てるように、こ
の瞬間に用意されている。

街角で行き交う人たちは優しい眼をし
ている。空の向こう、湧き上がる雲の
峰のどこか遠くにある国の、夢の中に
いるような眼。夢を見て、今、ここに
いる私を、

見ているようで見ていないような、優
しく穏やかな眼差し。



自由詩 優しい目をしている Copyright 北野つづみ 2010-11-27 20:17:52
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