《楽典》 粘膜上皮
salco

絡み合う2匹の軟体動物さながら愛し合う
舌と舌とが唾液を攪拌しながら弾かせる
無声子音の破裂音
こうやってお前を吸い込み食べちゃいたいよと
賞味し合う前菜じみた聖餐の
静かな咀嚼音

それから指で入国審査を済ませた男が下のギリシアに赴いて
舌を駆使して神殿に祈りを唱える
すると女は外交官特権で上のインドに向かい
口を極めてリンガムを賛嘆賞美する
東は西に、西は東に
覆い被さり邪教の神に信仰告白する、
この宗教を超えた合同ミサの
慎ましやかなオルガンの音

やがてインサートの快感に炎と燃えるピストン運動と
シトドに迎える泉が奏で奉る、
完全無比なる陰陽和合の摩擦音
tptptptptptptptptptptp……
陶酔につれ加速して行く
アダージョ・ドルチェからプレスティーノ・フェローチェ
感興と疲労を顧慮しつつの自在な変速、タッチの強弱
終奏までの涙ぐましい通俗アド・リブ

理知の底流
美辞麗句の核心に酔う獣の交歓の
うねり高まる螺状混声2重唱
その間に間に聞こえる通奏音
それは経験者のiPodだけに同調する、
耳まで赤くなっちゃう伴奏音
このよがり声のカプリッチオの次に
十月後に生まれ来るお子さんには極力知られたくない
抽斗隅の催淫剤
アパッシオナートかつエスプレッシオーヴォ
どんな家でも頬染めいそいそ鳴らしてる
わりと後ろ暗めなヨロコビの歌
これをして粘膜上のカノンと人は呼ぶ


自由詩 《楽典》 粘膜上皮 Copyright salco 2010-11-23 00:29:05
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