晩夏
Giton
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きみの瞳の奥にはぼくがいる
ひざを抱えた小さな男の子がいる
裸で寒さに震える細い肩きみの深い
瞳の底にはまだ誰も行ったことがない
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きみの瞳の奥には男の子がいる
入ってはいけない淵の底もう出られない
からっぽな部屋はからっぽじゃない
きみがいっぱいに詰まっている
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だからきみは溢れ出してぼくの
中に流れ込んで来る閉じてもふさいでも
流れ込んで来るきみはぼくの泪を通り抜け
からっぽなぼくに流れ込む
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(そしてあの靄にかすんだ夏の夕
悪魔に魅入られたようなあいびき)
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そらを覆っていた厚い
雲にぽっと穴が空き
光が墜ちてくる幾本も
幾本も束になって光が
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射し込んでくる:きみの低い声には
覚えがあるんだ森を抜けた先の
沼地に雨がしずかに沈んでいるきみは
いつもそうやってぼくに語りかけていた…
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(何ごとも無いかのように時を刻む
針だけが縺れ合うふたつの
身体をじっと見つめていた)
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そして黒い瞳の奥にはきみがいた
思いがいっぱいに詰まった瞳から
きみは溢れ出して来たぼくのなかに
満たされない思いが闇の果てから
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じっとぼくを見ていたからっぽなのに
泣き疲れたぼくの中はもうからっぽなのに
きみにいったい何をあげられるだろう
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闇の果てで赤い光芒と
重い軋りを残して静かに
去って行く幼時の幻影…
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