叫び
なき


 電車のホームに自らを叩きつけるようにおりた白い紋白蝶は風に吹かれて響くように揺れながら嵐のように揺れながら蝶のように美しく軽く軽やかな足取りの女の黒いヒールの爪先に踏み潰された。
 朝の光のなか私はもう死んでしまったほうが楽なことは間違いないと思いながら眠気を堪えて足を踏ん張って立っていたのに風を堪えて冷たさに痛む足で立っていたのに踏み潰されてしまったときは枝から引きちぎられる枯れ葉のように小さくか弱い悲鳴をあげた。
 もう死んでしまうのに間違いないと思っていたのに死んでしまったほうが間違いがないと思っていたのに抗わずに踏み潰された残骸は既に死んでしまっていたのにもう少し生きられたらよかったのにと小さく悲鳴をあげ続ける残骸の残骸は白く瞬き踏み潰されずにアスファルトにこびりついているので耳を塞いであげたいと思って口を閉じ目を閉じてあげたいと思って白く瞬く羽の断片をそっとつまみ持ち上げてそっと飲み口を目を喉を閉じてそっと耳を塞いだ。




自由詩 叫び Copyright なき 2010-11-21 18:41:15
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