天野茂典


 


  野に、球
  と書いたのは清水哲男だったかわすれたが、
  日本シリーズもたけなわで、
  今日はいよいよ第七戦、西武が勝っても、
  中日が勝ってもちっともおもしろくない、
  テレビをみるかみないかもわからない、
  新潟の地震がどうなったのかも、新聞も
  テレビも見ないから何にも知らない、津波が
  なかったらよかった、今ぼくは吉村明の、
  『三陸海岸大津波』をよんでいるが、それは
  それは地獄絵図だ、なまなかなヒューマニズムで
  語れない惨状が何千年にもわたってくりひろげられている
  野に、球
  三陸海岸はぼくも車で旅したが、
  旅人にはリアス式海岸の風光明媚な観光名所としてしか
  映らなかった、
  草、
  野球ではサードを守ったぼくだったが、
  どこでもがらがらのグランドで声だけはだしていた、
  真夏の汗と、水の匂い
  野に、球
  守って、打つのだーー外野席まで
  見失ってしまったボールのゆくへ、草むらの中の  
  猫の死骸が白骨化していたりする映画ではない現実の、
  守備位置には限度があるのだ、
  打って守って、
  守って打って、
  やがては沖から攻め寄せる三陸海岸大津波
  環太平洋どこまでも世界の淵をさらうのだ  

  
  野に、球
  津波にさらわれたぼくは小さな赤ん坊だった



   
         2004・10・25
   


自由詩Copyright 天野茂典 2004-10-25 18:27:55
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