酔歌 - 4 / ****'04
小野 一縷


瞳孔の暗黒の中に 太陽が一粒落ちて 沈んでゆく

狂気へと たそがれる 一筋の緊迫した神経
暗闇にもたれて 電磁波の凶音を 非難場所の平原
音符が草々と香り 鎖雨と ひっそりと 通じ合い 
囁き合う和音が木霊となって還って 輪唱される旋律は
闇の密度を軽々しく 揺すってみせる
闇夜に酔った者が 夢の薄い一枚ずつを 綴じれば
優雅に巻きつく風の温さとともに 一粒 一粒
粉雪の羽根のような冷たさで そよいでくる

背の髄と背の肉を降ってゆく オウロラ
豊かな音諧を従えて 遠いチベタンの灰黒い山羊を
黄金の角笛と銀の葦の枝で 微風と追いたて
蒼い山を一つ なだらかに 波に乗るように越して
緋色の眼を持つ  灰白い牝牛に会いにゆく

熊の毛の鋼鉄は自然の厳しさ 
矛のような爪 鏃のような牙 
キムン・カムイ 北限の地で冷徹な美徳
刺さる斜線の吹雪の 連射速に
月のように蒼い痣が 皮膚を熱して赤らめる 疼く

蒼い輝石に溶け込んだ銀の鉱石
その暗い眼の青さは紺 遠く深い藍
小石の中に弾ける宇宙
指輪になって ただ静か 森羅を見守る

魂は帰る 父のもとへ そして母のもとへ
時間が廻るように 
今日が昨日になる その美しく優雅に輝く 経過
獣が人に変成した いつかの その瞬間
失われた花の呼び名 今は白雪降り注ぐ湖畔
そこから飛び立つ一羽の 灰青色の水鳥
散った飛沫は 氷粒として湖面に 零れて 輝いた
青い透明の中に隠された輝きの輝度は 冷ややかな音諧
それは 旅立ちの旋律に変成する
タタンカが 遠く 月より高い丘の上
暗黒の夜景へ向けて 威厳を 遠く鋭く 吹き降ろす

熱く 熱く 清々しい 熱を 浴びる 
脳天から爪先にまで 染み渡る 血熱
二つの黒い眼を宿した炎 松明を止り木にして 息をつく
天へ 一切を落下させる 天へ 
暗黒の天へ 上昇するものは 墜落へ暗転する
闇は常に回転している 円を描くものは 全て回帰する 
回転する巨大な暗黒
星々は 蜘蛛の子のように 弾けるように 
産み出されて 滑走 遠く巡って回帰する 未だ瑞々しく 
回転する巨大な暗黒 

その小宇宙 星 海 地 生命 時間上に 
回帰する巨大な暗黒 
始まりと終りが 永遠に廻り合い 舞踏する

今 今以外の瞬間を閉じ込める
過去をここに 明日をここに
言葉の蝋を垂らして 封をする

そして この詩篇は こうして君へ 届けられた 
君はこの詩を 好きに読めばいい 好きに扱えばいい
君の中の記憶遺伝子 その一素子として この詩は
伝わってゆく 
旅をする 
遠く ぼくの子孫に この詩は 
ぼくの遺伝子をもって 会いにゆく 

まだ 遠く 具象化されない高純度の魂の分子よ
ぼくの詩 これら 脳裏の隅に記された意識内の詩的探究を
永く永く 真新しく繰り返す その先頭 波頭を 電子的に粉砕しろ
光速 飛び散る探究の破片 無限の行方 
追いついてやる 答えは一つあれば十分だ 
一点 針で貫く 蒼く静かに脈打つ 
血管は ルートは 円は 環は無限 
そこには 正確な時間の経過が許されていない

五感をペンとして 再結晶させる この行いが
そう 言葉の意識化 ぼくの詩の行方は 感覚の結晶
その硬度と密度と重量として ここにまたこうして 
一つ一つ 捧げられる ぼくの詩を ぼくが受け止める
他人に用はない 

あなたの 迷妄の その全てに 
この詩は 染み入って結晶し 罅を入れ 
鮮やかに 黒い稲妻の疾駆 硝子粉の遥かな飛散と
黒く輝く露として文字になる 
回帰 
黒は黒へ 白は白 銀は銀 青は青へ
何も隔てるものは無く この詩は 還ってゆく 
あなた
ぼくのいつかへ








自由詩 酔歌 - 4 / ****'04 Copyright 小野 一縷 2010-11-19 18:08:08
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