アトリエ
乾 加津也

まもなくアーチストは戻った。まだ呑み込めないわたしに、定まらない彼の焦点は、あかるい動揺を落胆でずぶ濡れにしている。
「わからんのは、柵を跳びこえた・・・馬の行方だ」

 きみは手を創造した「手」を認めるか。川を掘りそこに思考を流しこむ
 「純粋知性」をどの場所から否定するか。どこかに結びつける必然(コ
 ラージュ)はあるのか。
 (それは精緻で粗雑な帰途風景のようなもの
  /潜在の川面をゆく死と生の同時声域のようなもの)

「あらゆるものが“穴”(非在の枠)となり」
「あらゆるものが穴に落ち込む“石”(芸術)となる」
「時の不滅性はこの矛盾で立証される」

彼の手法が壁に螺旋を波動させたとき、わたしは見た。徐々に熱で溶けるかのような大穴とその奥から、馬のいななく精悍な前脚、すぐあとにはむき出しの目玉がゴロリと三つ。
「これは因果か応報か」
もはや、焔も凍るカンバスだった。
このうえは在りつづける理由もない。体のどこかの装置を引いてわたしは壊れた画材になった。ただし束縛は赤、解放は青、執着は黒の条件つきだ。


自由詩 アトリエ Copyright 乾 加津也 2010-11-19 00:07:18
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