親と子
yumekyo

梅雨の合間の蒸し暑い日に
祖母(はは)を見送った父は
背負い続けた重たい荷物を
漸く下ろす事を許されたようだ
まなざしが温和になり
急にやつれて見えた
初老の男であった

親と子の問題は文明以前に始まり
現在に至るまで悠然と生き残り続けている
人の親ではないが
親子とは火種の臭いを感じさせなくても
本質的に一触即発の関係であると感じることはできる

子という存在は
親にとっては神に投げ渡された客観的な自らの像
子は親から目をそらすことはない
たったそれだけの理由で
親は子に対しては屹立し
片隅に緊張感を具備して相対するのだ
そしてどちらか一方の死によってのみ
緊張感から解放される

親は子に対して屹立し続ける為に
子の三倍は奮闘しなければならないと考えるが
緊張感に耐えられない者達は
子を玩具として取り扱うことで
自らの像そのものを誤魔化し続けている
時を経て自分自身の破壊に至ることを知らず

もっとも最近では
相対し続けるそれぞれの親と子の周りは
親にすらなれないであろう若者達が層状に幾重にも取り囲み
剣闘士の殺し合いを期待する観客の役目のみを果たしている
閉じ込められた親と子は
客観同士を食い合って像を失い
ふたりして振り上げた拳を下ろす相手を持たない
自暴自棄の存在となって
やがては観客に襲い掛かり 牙を向き
流血の惨事となるのである


自由詩 親と子 Copyright yumekyo 2010-11-17 23:07:46
notebook Home