待つ目
阿ト理恵

インクを買いに行ったまま
わたしは帰りませんでしたが
あなたはあやまらなくていいのです
わたしもあやまりません

外を歩くともなく歩いても
柿の葉のみどりがからだに痛いだけです

職業欄に書くことがないというわたしは
手術のあとにはじめて口にした
おもゆのように
おいしさは錯覚でした

かん違いをずっと続けてゆきましょう
ひびのはいった器は
あんがい壊れないものです

雨の日のドライヴで
ワイパーを動かさずにいつまで耐えられるか
命のかけをしましたね

書き間違えて
親変なるわたしたちは
あす未消化のまま
地球とともにほろびるのでしょうか
あこがれのフーテンの宙さんへ届けた
球体からの手紙を読みました
時間がミンチスペシャルな球体は
へその緒をなくしてしまったらしく
球体の糸あるいは意図は細くなりゆくばかり
わずらっているらしく
使用期限切れの切符すらなくしたという

置いていったわたしの右目は
わたしの帰りを待っているのですね
もうすぐ梅雨になります
かびが生える前に
帰ろうかしら
えぐりとったあなたの左目を持って






(1997・9詩学/1998・10阿ト理恵大全集より)



自由詩 待つ目 Copyright 阿ト理恵 2010-11-17 12:29:23
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