土蔵の中の子供
豊島ケイトウ

 敷地のすぐ南側に土蔵がある
 今や歴史はすっかり耄碌し
 殆ど零れ落ちた漆喰のそこを
 しかし私は依然として
 こよなく愛でる

 穏やかに晴れた日は
 土壁の体温が心地いい
 昼下がりには頬を宛がって
 日向ぼっこに耽ってもいい
 やがて心音を聴くだろう
 土蔵だって照れくさいのだ
 私の頬の感触が

 一癖も二癖もある扉を
 力いっぱいこじ開けて
 枯れ枝で鼠返しを叩きながら
 おおい と呼びかける
 籐椅子に掛け軸に
 篩に鉢植えに呼びかける

 隠れん坊を続けたかった私は
 大人になるずっと前に
 永遠の子供を閉じ込めたのだ

 おおい
 もういいからさあ
 出てこいよお


自由詩 土蔵の中の子供 Copyright 豊島ケイトウ 2010-11-16 11:25:40
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