降り来る言葉 XLVIII
木立 悟









夜が
片方の手に獲られる
片方の手に
片方の手が乗る
夜は
じっとしている


何もない場所にただ建てられた
何にひとつ隔てるもののない壁
霧の舟が
霧に還るのを見ている


菓子の夜
冠の夜をすぎ
電熱線
鉄条網
にじむ音の夜


取り戻せないものを映し
鏡は吼える
鏡は吼える
自らを焼くように反りかえる


夜が去る前に
次の夜が来る
夜は
水ばかり聴いている


生まれを消す火
骨を消す火
風が水を吹いている
離れたくないほうから
水は 光りだす


目と目のあいだ 指の交差
半分の半分にちぎられた紙
熱は残りつづける
光沢として 塩基として


在るがままに在り 消えほどけ
光りかがやきながら憶えられない
同じ向きに振り返りゆく横顔の
常なる常なる虚ろを負う


夜の氷に仮面を並べ
いつか離れる日々を夢みた
消えても消えても消えても消えても
氷はそこに在りつづけるのに


半分が半分を呼びつづける間も
ひとつはひとつでなくなってゆく
羽を羽に寝かしつけて
息は冬に暮れてゆく


もうこれ以上
進めない場所にある
黒と白を抄い
水にひたす
その場所には
その場所の水がある


十億楽章 十二楽章
皆そこに居るという
聴きも見もせず
そこに在るという


階も解も無い建物の上に
座るだけで早や昇り尽きる
垂直の洞 垂直の闇
天よ天
かしげれば かしげるほどの青


ひとりとひとりの距離は無くなり
金と緑は冷めて空を見る
むらさきばかりが道に熱く
夜のなかにふと むらさきで居る


透明な蟲毒に映る夕べ
あふれる色 階を照らし
色失くす色 段を昇る
降るは空
外の外の空



































自由詩 降り来る言葉 XLVIII Copyright 木立 悟 2010-11-15 22:07:08
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