エリスの思いで
吉岡ペペロ

ロサンジェルスの薄ぐもりの海岸

タクシーをおりるとそこには僕だけだ

なん色かの雲の層がよこに延びている

風が水っぽい匂いをさせてほどけていた


エリスはほんとうにいるのだろうか

まだ寒いが3月だった

午前中でもこんな閑散としているとは

もうすこし賑わっていると思っていた

エリスの姿もそこにはなかった


近くのバーが空いていてくれた

あまり酔いたくはなかったけれど

ふつうにバドワイザーをたのんで

世間話をなんとなく聴いていた

クラプトンのマザーレスチルドレンが流れ出した


なんでこんなとこにいるんだろう

エリスはなにをもったいぶっているんだ


僕の自尊心がぶらぶらと揺れていた

坂道をくだるときの

骨がばらばらになりそうなのを

肉だけがつなぎとめているような

そんな不快なリズムで揺れていた


エリスは華僑と結婚するんだそうだ

僕は彼女のしあわせを願うことはしないが

もっとどうでもいいような気になりたくて

バドワイザーをもういっぱいたのんだ

そしてケイタイに着信がないかをたしかめて

もういっかい

マザーレスチルドレンをかけてくれないかと言った







自由詩 エリスの思いで Copyright 吉岡ペペロ 2010-11-15 12:51:27
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