エリスの思いで
吉岡ペペロ
ロサンジェルスの薄ぐもりの海岸
タクシーをおりるとそこには僕だけだ
なん色かの雲の層がよこに延びている
風が水っぽい匂いをさせてほどけていた
エリスはほんとうにいるのだろうか
まだ寒いが3月だった
午前中でもこんな閑散としているとは
もうすこし賑わっていると思っていた
エリスの姿もそこにはなかった
近くのバーが空いていてくれた
あまり酔いたくはなかったけれど
ふつうにバドワイザーをたのんで
世間話をなんとなく聴いていた
クラプトンのマザーレスチルドレンが流れ出した
なんでこんなとこにいるんだろう
エリスはなにをもったいぶっているんだ
僕の自尊心がぶらぶらと揺れていた
坂道をくだるときの
骨がばらばらになりそうなのを
肉だけがつなぎとめているような
そんな不快なリズムで揺れていた
エリスは華僑と結婚するんだそうだ
僕は彼女のしあわせを願うことはしないが
もっとどうでもいいような気になりたくて
バドワイザーをもういっぱいたのんだ
そしてケイタイに着信がないかをたしかめて
もういっかい
マザーレスチルドレンをかけてくれないかと言った