天体観測
時間が蕩けるアインシュタイン

思わず産毛が逆立ってしまう真夜中の二時。これから一人で生きていけるかどうか怖い。だから背筋に悪寒が走ったんだ。君は死んでしまったから僕の事は忘れてしまっただろうけど、僕はBUMP OF CHICKENの「天体観測」を聴くと、どうしても君と歩いたあの日の夜空が胸に刺さって、感傷が滲み出てくるんだ。森の中の教会で、ステンドグラスの日溜まりの様な色のワインを君と飲みたい。それはとってもカラフルで、美味しいんだ。森の動物達が僕達を呼んでいる。でも、彼等について行くと二度と森から出られなくなってしまう。それが何を意味するか分かるね? つまり、僕達は森の奥で永遠の若さを手に入れる事ができるのさ。
今夜は晴れているね。駄目だ、星空を直視する事ができない。涙が溢れてくるんだ。君は学校祭の夜、一人教室から星空を眺めていたね。君も僕も皆とはかなりずれていたね。学校祭のイメージソングが「天体観測」だったね。僕は小汚い箒をギターにして皆の前で無理をしておどけていた。でも、君の前でおどけることは無かった。何故なら、君の前では正直でいられたから。吹奏楽部の定期演奏会、楽しかったね。だけど、その後の事を思い出そうとすると、胸が苦しく成る。苦しい中、君と同じ位苦しい中、大きな公園の湖の畔で月を見上げる。二人で一つ。初めて君と手を繋いだ夜。
冷たいリノリウムの床の上で、君が溺死している。僕は日溜まりの中から君を抱き抱え、焼き爛れた瞳で心の中の太陽を握り潰す。アタラクシアの匂いが漂って来る。青りんごが反時計回りに回転している。其れに噛み付いて前歯が折れる想像をする。精神病院の白いリノリウムの廊下の上で、僕の負の感情諸々が煮え滾っている。僕は時々思うんだ、もしもっと早く君と精神病院に隔離されていたならば、君は自殺なんて下らない事をしなかったんじゃなかったか、ってね。僕とセックスしようよ? 今からでも遅くない、僕とセックスしようよ? 僕は、君の瞼に自分の瞼を食い込ませたい。世界中の日溜まりを買い占めてさ、あんな暗い場所じゃなく、日溜まりの中でセックスしようよ? 僕が君から訊きたい事はただ一つ、どうして自殺なんかしたのさ? でも、本当は、僕はその答えを知っているんだ。けれど、僕と君が永遠に成る為には、君の確かな裏付けが必要だろう??
もう、永遠に夜が来ない、白夜の世界で生きていきたい。ホッキョクグマと戯れたい。そして、外人の様な端正な顔立ちの、綺麗な君の事を忘れたい。時間が全てを解決してくれる、確かにそうかもしれない。でも、もう君の事は二度と思い出したくない。君との食事の事、君とのカラオケの事、君との会話の事、君との全ての事……、君の事をこれ以上思い出すと、発狂してしまいそうだ。心の心拍数が一直線に成った。今の時刻は午前四時。疲れ果てた。僕は、BUMP OF CHICKENの「天体観測」を聴きながら、時には懐かしく、時には真面目に、そして時には涙ぐみながら、きっと決して忘れる事のできない君に対して書いて居る。僕は君とは違って自分には負けずに日々生きて、この世に留まって居る。そして今日、遂に、僕は僕に妥協した。君の事を忘れる事ができなくてもいいじゃない? オーケー、僕は他者に初めて心を開くことにするよ。僕は、六年経った今でも、彼女の事を愛しています。だから、恐らく、当分の間は他の女性を好きになれる事はありません。いや、もしかしたら、永遠にその可能性は無いかもしれません。


自由詩 天体観測 Copyright 時間が蕩けるアインシュタイン 2010-11-15 00:43:10
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