ヴォルガ考
吉岡ペペロ
おんなとわたしもまた
時間や空間や生命のいちぶをなした
ちいさな文明にちがいなかった
川は文明のゆりかごだ
ヴォルガをみつめていてそんなことを考えていた
青と灰いろにそめられた川景色は
ひとびとの乱痴気騒ぎと
おんなじようにちぎれているようだった
青にちぎれた妖精たちが
灰いろの不穏を藍色にかえてゆらしていた
となりのおんなが川をみつめている
川はどうやらみつめられるためにだけ存在している
おんなはなにをみつめているのだろう
さっき視界にはいったばかりの
わたしとの十年後をかんがえている
川は文明のゆりかごだ
おんなとわたしもまた
時間や空間や生命のいちぶをなした
ちいさな文明にちがいなかった