木螺子
nonya

自分が木螺子だと気づいたのは
空の水が全部落ちてきたような
凄まじい雷雨が通り過ぎた後だった

公園のブランコの下の水たまりに
たまたま自分の姿を映した僕は
ほんの少しだけ驚いた

でも落胆はしなかった
少し前からうすうす感じていたことだから

僕は頭でっかちで
翼なんか生えていなくて
足は半ば退化していて
移動する時はいつものたうち回って
だから全身が傷だらけで

そんな事ぐらい気がついていたから
いまさら何処の工事現場から落ちて来たのか
考えても仕方のない事だった

ある日偶然にも
誰かの靴底に弾かれて
僕は地面に突き刺さった

頭をわずかに東へ傾けて
僕は久しぶりに風景と正対した
もう完全に動けなくなってしまったけど
なんとなく幸福だった

季節と時間は
動けなくなった僕の回りを
極めて滑らかに巡った

春夏秋冬春
朝昼夕夜朝
さすがに退屈になった僕は
気がつくと時計回りで回転していた

いつからか僕の身体に刻まれた
螺旋状の傷痕は
地面とよほど相性が良いらしく
僕は回転しながら
着実に地面にめり込んでいった

土の中は思ったより温かかった
僕は心の底から安堵した
もう二度と転がらなくても良いと思うと
少しぐらいの錆びつきは気にならなかった

僕は今
首の下まで地面に埋まっている
(と言っても首がどこだか分からないが)
もうすぐ僕は地面と同じ低さになって
みっともない自分の影を見なくて済むようになる

+かーの
(まだ確かめた事はないが)
模様が刻まれたデカ頭を
墓標のように地面に残して
やがて僕は呆れるほど長い時間をかけて
土に還元されていくのだろう

そこで
君にひとつだけお願いがある
その右手に得意そうに握られたドライバーを
何処かに捨ててきてくれないか

たとえ
ガムを吐き捨てられようと
犬にオシッコを引っかけられようと
僕は前向きの土に成り果てると
心に決めたんだから



自由詩 木螺子 Copyright nonya 2010-11-12 21:32:48
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