消費者
yumekyo

夏 稲は半可通の青空に憧れ
精一杯の背伸びをする
間近にある 黄金色の向日葵は糾弾の対象
秋 成熟した青空は遥かに高く遠くなり
稲は内々に埋まらぬ空隙を抱えながら
頭を垂れて収穫を待つ運命
あれほど向日葵を虚仮にしていたのに
役に立つ為にと自らを黄金色に染めている
されど車窓の外に受け流すのであれば
稲の懊悩など思考の端にものぼらない
古くて新しいコメ問題の根源は
畢竟 稲穂にこそ内在するものであるが
精米された米粒の側からもっぱら論じられるに過ぎない

蝶の成長を見守った記憶のない男の子と
球根から花を育てた記憶のない女の子とが
街ですれ違う
記憶 経験 余りにも幅が狭すぎて
世の息吹を上手に切り取ることが出来ずに
一様に退屈を持て余しているから
すぐに手に入り かつ手を加える必要がない
退屈凌ぎばかりを探す日々
完成された食い物 完成された読み物
完成されたアーティスト 完成された仕事
完成された男 完成された女
完成された退屈しのぎを捜し求める作業は
完成されたことの定義を捜し求める日常である
おかげで 
完成されたことの定義を偉そうに論じる
余りにも何事に対しても無責任な
横文字の肩書きの男女が増殖しすぎて
わたしは強烈な吐き気を催す

我が国では 物を創る者が最も尊ばれ
練達した腕には神が宿ると違和感なく信じられてきた故か
今将に物の生まれんとする現場を車窓で受け流し続けることにより
後ろめたさが日々内面を侵食する
消費者に成り下がった現代の男女は
精米された米粒しか発想の起点に出来ずに
過程に立ち会えぬことへの後ろめたさを抑えることが出来ずに
完成の定義を云々することでお茶を濁しながら
内面の空隙を埋めていく

それは秋の始まりの頃
稲に生まれた内面の空隙と同じ性質のもの



自由詩 消費者 Copyright yumekyo 2010-11-11 22:31:16
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