おはじき
乱太郎

空をなぞって
言葉がはじけていたのは
     少年だった頃

女の子がおはじきに
言葉を色分けして空き缶に詰めていった
          夏の海に帰る前に

すき
という二文字が

砂浜を駆け廻り
澄んだ水いろに運ばれていった
      十才の麦わら帽子

さようなら
といって手をふったのは
また明日もね
という合図

女の子は夕日に連れられていった


あれから
数十年

裸足を濡らしながら海辺を歩いていたら
「あら、こんなところにどうしてかしら。」
白い腕をのばして妻が拾う
「私も小さい頃よくおはじきで遊んだものよ。」
手のひらでにこり笑う妻

「もういらないね。」

おはじきを
そっとさざ波に還してあげた



自由詩 おはじき Copyright 乱太郎 2010-11-11 14:00:55
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