地
一 二
始めにして初めての物語
遥かなる物語
失われた神の物語
天から一人の男が
吊るされていた
男は守護者で在った
叛逆者で在った
破壊者で在った
造物者で在った
男は翼を失った者
男は神であることを失った者
男は天の罪人
男は叫ぶ
「世界は黒い、とても黒い
黒々とした地獄の果てだ」
吊るされた男は地を見つめる
男の視線が大地を裂き
そこから血を溢れ出させた
男の目はいつしか
黒々と大地の色に染まっていく
そして無窮の刻が流れた
いつしか在る刻
幼い娘が天を見上げて
こう呟いた
「まあ、お空から神様が
わたしを見ているわ」
男はその言葉に驚いた
永劫の時の中
今まで男の存在に気がつく
地の者など誰もいなかったのだから
男は空からその娘を眺めて愛した
幼く、無垢で、純潔な娘であった
だがその娘は
無意味で残酷な争いに巻き込まれ
若くして命を落した
男は地を呪い
己が持てる力の限り
有りとあらゆる災いを地上に齎したが
地は滅びなかった
地は剰りに穢れていたが故に
男の呼び寄せる災いは
全て地へ吸い込まれ
地の人々は災いの存在に
気付くことすらなかった
男は絶望のあまり
倦み、疲れ果て、胸を痛ませた
絶望に溢れた地上を
全て滅することが
男の望みだったが
男にはその力が無かった
だが、在る日
男がかつて愛した幼子に似た少女が
天をじっと見つめ
そして、男をじっと見つめた
「そこにいるんでしょう?神様?」
男は驚愕した
この娘は地から見えぬ筈の俺に
話しかけてくる
男は云った
「地の子よ!私の声が聞こえるのか!?」
彼女は黙って
真摯に、真心から、男を見つめた
空を見る彼女の眸に
空の向うの天が写っていた
天、男の故郷、天の国
男は全てを理解した
男は天へと身を繋いでいた縄を斬り
自らの身を地へと堕した
男が起きると、そこには
「起きられたのですね、御子さま」
優しい笑顔を浮かべた
天を写した眸の娘
可愛らしい小さな女の子が
温かいスープ皿を持って立っていた
男は笑って彼女を抱き寄せた
暖かく優しい薫りがそこら中に広がった
始めに少女があった
少女は神と共にあった
地に光あれ