おちば
乾 加津也
いつも前をみなさひと叱つてくれた母/あでやかに彩(いろ)めきわたし生涯初のだいびんぐ/息をみたし瞼をとぢて“さよなら”のかたちで関節をのばす
すでに顔をそむけ唇を噛みしめ/母のしおからひ指先をはなれると臍の緒でもとれたやふにしぜんにこれまでのみんながさふだったやふにありふれたいちまひの落ち葉になれました
ちぎれ舞ふ芸妓さんのうなじ光を纏うカクテルの羨望息たへる冒険家の絶頂/おさなひころからのあこがれをひとつひとつ開きながら二度三度気儘なつむじ風に身をまかせ“あなたは?”とつぶやゐてみます/そふ忘れてゐたかなしさが泉のやふです あヽ/下ることが永遠の懐に抱かれることが怖ひのではありませんそれはわたしのこころの葉脈になほも“熱情”といふ傷だらけの古木(まぼろし)が/すがるやふにぢっとわたしをみつめてゐること/あヽ立ち尽くしてゐるこれほど/これほどきよらかな選択(わかれ)はしりません
ちひさなわたしのしらなひ/さびれた街ではしろひ汽笛がなってゐる/蟻との夜をおもひだしましたちよふどこんな冷たひ夕暮れそして/ちよふどこれほどさわやかな季節に/なつかしさはうつくしひのですね/うつくしひちからが/これまでとこれから/のわたしをいゑ/わたしのしらなひ/すべてを/おおつて/くれまし/た/。