奇妙な果実
ホロウ・シカエルボク


※首吊り自殺の動画について書いています。苦手な人はここで読むのをやめてください。



昨日明け方、某サイトで、自分が首吊って死ぬ様を生中継した若い男がいた。ある掲示板でぶらさがった写真が貼られていて、それで知った。夕方になって、またその掲示板に行ってみたら、生中継された動画の編集版がアップされていて、クリックした。

人が死ぬ動画をよく見る。事件、事故、自殺。行くところに行けばそういう動画はきちんとおいてあって、面倒なことは何一つせずに見ることが出来る。悪趣味だ、とあなたはもちろん言うだろう。だけど、これはぼく個人の感覚としては、「知ることが出来るならそういうものは知っておきたい」という類の事であるのだ。

実は、先週だか先々週だかにもそういう動画を見た。それはどこか海外の動画だったのだが、今回のものと同じように、どこかのサイトで生中継されたものだそうだ。

その動画の死はあっと言う間だった。ドアノブにひもを掛け、足を前に投げ出して腰を浮かせた姿勢で逝くスタイルだった。ぐっ、と首の一点に体重が掛かった瞬間、顔が真っ赤になり、赤黒くなり、冷めた。身体は強烈な電気刺激を受けているみたいにびくんびくんと何度か大きく痙攣をして、それから大きく息を吐いたように脱力して、それきり動かなくなった 。

今回の動画は違った。物干しにかけたタオルを首に巻き付けてから、長い間窓際で、最後の一線を越えることを躊躇うような時間が続き、その瞬間の時さえも何か、「もう少し大丈夫か試そうとして落ちてしまった」という感じでベランダにぶらさがった。先の海外の動画には迷いのようなものはいっさいなく、ササッ!グッ!ピクッ!という感じだったのだが、この、昨日行われた首吊りでは、途中の痙攣さえもがまだ死ぬかどうか決めかねてるみたいなささやかなものだった(まあ、その時点でもう意識なんかないだろうけど)。その動画は彼が動かなくなって程なく終わったのだけれど、リアルタイムではそのまま空が明るくなってくるまで一時間近くその光景が映され、やがてサイト側により切られたらしい。

なぜそんなことになったのか詳しいことは知らない。ネットで自殺を宣言して、止められたり煽られたり、の、いつものあれこれのあげくのことらしい。だけど動画を見る限り、彼は生も死も信じてはいなかったように見えるのだ。正解は確かにあるのだろうけれど、それはどこなのか自分には判らない、そのまま始まり、終わってしまったコトのように見えた。

彼が今どうなっているのか判らないが、もしぼくが彼になにか伝えることが出来るとしたら、こう言う…こう言いたい。見たよ、と。茶化しも、しかめっ面もせずに、ただじっと、あんたがぶらさがって死ぬところを見たよ、と。

…だけどまあ、よく出来た釣りであって欲しいよね、やっぱり。


散文(批評随筆小説等) 奇妙な果実 Copyright ホロウ・シカエルボク 2010-11-10 01:20:42
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