瞬瞳 / ****'03
小野 一縷

湿った目蓋
その表面には空気の原子流域が干渉している
ガラスに滲むノイズのような きみの画像


輝く グラス
揺れる グラス 
いつもの グラス
いくつもの グラス
いつまでの グラス
いつまでも グラスメイト
きみとぼくとは そういった観点からして
二人の関係性の成立は ただの友情という繋がりではない
それは 
随分と前から 気付いていたよ


何度目かの夜
鉄筋製の星の北極点に きみを
ぼくは遠心力で貼り付けて 走り回り
自転を発生させてから 一人笑い転げ 息を切らした
きみは 星に張り付いた大陸だった
無限の宇宙に 畏れても
きみは ぼくの心にリンクしていた
細くても信頼以上の繋がり 光の糸で 


一体 何だったのだろうか?
あの夜の無邪気の透明度は 星々の瞬きが透き通る 
薄い黒色の膜に覆われて 計れないまま


何かが変わったんだ
すっかり夜の色は濃い
重力も 引力も 随分と 指向性が鋭利だ
皮膚にしんしんと沁みて 揚力を抑圧する


そういえば いろいろと焦らなくなった
飛び降り自殺のシミュレーション時の風圧なんて涼しいだけで
イメージトレーニングはしくじってばかりだ


確かに 目にする色彩が 変わってしまった
季節のように それは巡ってはくれない
もう その光度は不正確な数値じゃない
知ってしまった 怖れと怯えが持つ純粋な好奇心が
とうに飽きたセックスのように
惰性と倦怠の濃度を高めてしまったこと
不純物の混入とでも 単純に仮定すれば 個人的には分かりやすい


道筋を変えて 時間をずらして
記してきた道標を改めて確認して分った 
そこ その場所には何の進化も退行も無かった
何の変化も無かった
ただ 流れていた 流動していた
空気を成すの諸原子のように 見えず 


確かに 確実に 経過していた
ここ 
ここまで 流れ込んでいたんだ 同じ空気
感じる 肺に 肌に
思考では間に合わない 追いつけない 留められない
目蓋をスクリーンにして それから見る
夢じゃない 事実を映そう
洗礼を射し込まれ そこに 敬虔であろうとしたこと


ただ
求めたのは 赦しではなかった 
融合すること そこに 溶け合うこと 交じり合うこと 一つになること
一種の宗教的側面を有する その行為は
体力と体液を消耗する不埒な避妊性行為と相容れる要素が余りに多いが


しかし 思うところの深層から生まれる または
生まれてしまう種子に 死から誕生へのプロセス 
その発芽の経過を原風景として それが仮に素描であれ
記憶の中に 刷り込むことが出来たんだ
幾つかの曖昧な記憶を連鎖しても 瞬間的であれ
時間を遡ることは可能かもしれないが 
それは さほど重要な事じゃない


熱を感じる 光を 遠くに感じる
その距離が遥かであれ 光の存在
いつかと同じ 光の存在
それを感じていれば いいんだ


想いは 幾つかの特別隔離された記憶の連結において 
光より速く 通過する


そして 辿り着いた ここに
きみが いる
ぼくは いない
きみだけが いる
ぼくを眼に宿した
きみだけが いる


ぼくは 帰還する
二つの原子枠が開放された
いつかの 今 きみの瞳の中へ



 


自由詩 瞬瞳 / ****'03 Copyright 小野 一縷 2010-11-09 22:28:32
notebook Home 戻る