ハエの話
たもつ

 
 
ハエが世界を一周した
けれどとても小さかったので
誰も気づかなかった

ハエは自分の冒険を書き綴った
ジャングルの中で極彩色の鳥の
くちばしから逃げ回った日々を
港のコンテナの陰でじっとして
凄まじい嵐をやり過ごしたことを
けれど字がとても小さかったので
誰も読めなかった

今度はきちんと読めるように
拡大して印刷してみた
けれどハエの言葉など
誰も知らなかった

おまえは人間にでもなったつもりか
と仲間のハエにからかわれた
挙句の果てには人に殺虫剤を吹きかけられ
追い払われる始末だった
ハエは力いっぱい飛んだけれど
やがて力尽き
草の上で輝く朝露の中へと落ちた
月に行く夢を見ていた
 
 


自由詩 ハエの話 Copyright たもつ 2010-11-09 17:49:19
notebook Home